今回のゲスト講師はShe is編集長の野村由芽さんとプロデューサーの竹中万季さん。
「She isとは何か?」
その問いに、全てが詰まっている。
2人は、きっと「She is」という概念を、つくっているのだろう。
衝動をカタチにし、コミュニティで文化をつくる。
それでは、講義の一部をお楽しみください。
She is
竹中
私たちのみが発信するだけの一方通行のメディアではなく、〝Girlfriends〟と呼んでいるそれぞれの軸を持って生きている魅力的な女性たちの声を集めながら場所づくりをしています。
She is自体は株式会社 CINRAの中にあります。
会社からの要望があったわけではなく、私たち2人による、完全なる自主提案です。
2017年6月にティザーサイトを立ち上げ、9月から本格的に運営をはじめました。
野村が編集長、私が事業部長という立ち位置です。
〈竹中万季〉
野村
ティザーを立ち上げる時に、「伝え方」は大事にしたいと思っていて。
「既にあるもの」であるならば、それはもう、「あるもの」でよくて。
「今、まだ存在しない場所」を、どのように働きかければ、もっとも伝わるのだろうかということを考えました。
私たち自身も「問い」の答えは持っていないけれど、「こういう場所を作りたいのだ」という形のないイメージは強い想いをもって伝えることは意識して。
ひとりひとりが、無敵かもしれないと思える夜を増やす。
サイトの紹介ページで、このようなメッセージを目にすることってあまりないと思います。
〈野村由芽〉
人がほんとうに輝く瞬間というのは はたしていつなのだろうか、と考えました。
ありのままの私で生きたいと願っても ときにはどうしようもない壁にぶつかるし、落ち込む夜もある。
でも、ひとりだとどうにもならないことも 「私」があつまれば、なにかが変わるかもしれない。 好きなものを深く語り合ったり、意外な出会いに触れたりしたとき、 発見が訪れ、力が湧いてくることがある。
私たちは、そのための「場所」をつくりたいと思います。 ひとりひとりが、無敵かもしれないと思える夜を増やす。
女性として生きる道のなかに 瞬いたり、閃いたり、小さな輝きがたくさん生まれますように。
自分らしく生きる女性を祝福する ライフ&カルチャーコミュニティ“She is”、はじまります。
(She is ホームページより)
これを書いたのは深夜3時。
私自身も深いところにいる状態で。
この文章に行きつくまでに1年くらい2人で話していて。
お互いにキャリアに対する悩みや行き詰まりを感じていた時期で。
深夜2時くらいまで2人で会社に残って仕事をして、その後ラーメンを食べに行く、という日々を送っていました。
自分たちが生きていく上で、本当に考えていきたいことに対して素直でいる。
そういう場所づくりをすれば、自分たち自身が今抱えている課題と向き合っていく。
そんな仕事と生活のスタイルができるんじゃないか。
そのようなことをぼんやり話し始めていました。
一人ひとりの声を集める場所。
一人ひとりが、自分の中に深くもぐることができるような文章。
〝個人〟として「〇〇をしたい」や「〇〇を考えている」ということを、立ち返る場所にしたい。
それをブラッシュアップしながらつくりあげていきました。
〝自分らしさ〟の大衆化を
竹中
She isを立ち上げた頃に考えていたことと今考えていること。
変わらない部分と変わっていった部分、両方あります。
「自分として生きていく」というコアの部分は変わりません。
〝自分らしく〟という言葉も、今ではいろんな広告で使われていたりします。
言葉が広がると、当初持っていた響きとは別のニュアンスに変化していくことがあります。
そのことで、自分たちが意図していることがうまく伝わらなくなってくる。
言葉も日々消費されていくものだったりするので、伝え方というのは常にアップデートしていかなければと思っています。
野村
そもそも〝自分らしく〟なんて言わなくても、当たり前にみんなが「個人だ」と思えている世の中になっていればいいと思っていて。
一人日々とりがその人らしいカタチで存在し、生き方や選択を自分で肯定していけることが理想です。
彼女たちは「言葉で説明できないこと」を、言葉によって試みている。
それは小説的なアプローチと似ている。
小説には、「小説でしか届けることができない感動」がある。
彼女たちの活動に対しても、似たような感触があった。
もちろん文体の美しさや、言葉が打ちだすリズムは、心地良い。
でも、個人的にはそれは小説の本質的な魅力ではなく、口当たりの楽しさに過ぎないと思っている(もちろん否定するつもりはさらさらない)。
She isにも文体やコンテクストや言葉の美しさがある。
でも、もっともっと深いところに、「言葉にならない」領域に、その本質がある。
方法としての「She is」。
それは、消去法で選んだ手段なのかもしれない。
「これがやりたい」と言って選んだというよりも「この方法でしか伝えることができないんだ」という。
後ろ向きの消去法ではなく、前を向いた消去法。
She isは希望に満ちている。
すこやかな野心と、肌ざわりを想起させる感性。
とにもかくにも、彼女たちがしていることは、「すごい」。
きっと、もっともしっくりくる言葉は「革命」だろう。
ただ、形容詞は必要だ。
品位ある革命、静かな革命、ひそひそ話の革命…
うつろう言葉を武器に
She isでは「特集」と呼ばれる深く掘り下げたコンテンツを配信している。
Girlfriendsを巻き込んだムーブメントを含め、2人のものづくりには「言葉への感受性」や「言葉の特性を活かした考え方」を読み取ることができる。
野村
言葉というのは流動させるものだと思っていて。
固定するものではなく、動かすものだし、常に動いているものだと思っています。
「一般的にはこう使われているけれど、今まで使われていない別の言葉をあててみたらどうだろうか?」という実験はとても楽しいものです。
竹中
特集を考える時というのは、ミーティングスペースでシリアスに企画を練っているというのが普通だと思います。
深夜2時のテンションで、ファミレスで話しているような感じで、自分たちが「今」やっていることや、世の中に対する想いを何時間もあらゆる喜怒哀楽の中でしゃべり続けています。
そこから企画が生まれています。
野村
女性の生き方、場所、動き、メディア、が増えてきていて。
それはとてもいいことだと思っています。
自分たち自身が影響を受けてきたもの。
学生時代に読んできた本、聴いてきた音楽、観てきた映画。
「こういう世界もあったんだ」という表現。
それを自分たちの方法で伝える。
ものをつくったり表現したりすること自体が、今あるものに対して一つの視点を提案していくものだと思っています。
「文法に思考を譲り渡してはいけない」
これは多和田葉子さんの言葉で。
ドイツ語と日本語の両方で思考すると、「国によって、その言葉が何を指しているのか」ということに対して常に疑問を持ったり、柔軟に考えることに繋がります。
そういう視点で特集を考えています。
「理解したい」という熱
野村
年齢も職種もさまざまな約170名のGirlfriendsと関わらせていただいています。
公募というかたちではありますが、私たちからお声掛けすることもあります。
お声掛けの際には手紙を送るのですが、私はラブレターだと思っていて。
あらゆる依頼を人が受ける中で、「これは私のために書いてくれた文章である」とか、「私が書かなければいけない」と思ってもらう必要があります。
手紙を受け取った方も、その想いに気付くんですね。
それは「自分のことを分かりきっている」という意味ではなくて、「分かろうとして作られた依頼書である」ということ。
それはコンセプトの伝え方ということもそうなのですが、「なぜ、あなたに書いて頂きたいのか」というような部分も十分に伝えることができると思っています。
She isに至るまで
竹中
好奇心旺盛なところが自分の好きなところではありつつ、「果たして自分は何が一番やりたいのか?」ということをずっと分からなくて。
行動力はあるので、大学時代は興味があるところにどんどん行って、とりあえず足を突っ込むということをやってきました。
書店のインターン、雑誌のインターン、音楽レーベルのインターン…
バイトも掛け持ちで同時に3つとか。
行動して、うまくいかなくて、あきらめて。
「私は一つのことが続かない人間だ」と、あきらめてしまう自分に自己嫌悪になったり。
いろんなことをやっていくことで、自分が何をやりたいのかが分からなくなりつつも、一方では明確になっていく部分もあって。
でも、なんとなく形にはならない「こういうことを考えたい」とか「こういうものを大切にしているんです」みたいなものはたくさんありました。
「成功している人は、一つのことに特化している人なんだ」
私自身は、「自分では生み出すことができない」ということを、高校時代からコンプレックスに思っていました。
「自分は作家にはなれない」
そのことがとても苦しかった。
ずっと悩み続けていて、会社員になっても、ずっと「何ができるんだろう?」ということを探していた。
いろいろな場所に行って試行錯誤を繰り返していく中で「自分にしかできないこと」のようなものが、少しずつ見えてきた瞬間があった。
野村さんと仕事をするようになったのが26歳の時。
自分が抱えている言葉にできない感情や、なんとなくイメージしていたものを話していると、それが言葉になっていったり。
野村さんと一緒に仕事をするようになってから「好きだと思えること」に気付くことができた。
そういうものをベースにしてプジェクトとしてカタチにして、前に進めていくということがやりがいになっています。
悩んでいたことというのは、全て解決しているというわけではなくて、今も悩み続けてはいるものの。
「自分にしかできないかもしれない」と思えること。
あるいは、自分一人だと発見できないような───人との出会いがあってはじめて気付けることがたくさんあるということに。
その感覚があったからShe isがはじまったところもあります。
野村
夢に対して、「肩書や役職というものではない」というイメージをずっと持っていました。
具体的に「こういうことをやりたい」や「こういうものをつくりたい」ということはあったのですが、それがはっきりと職業につながっていたわけではなく。
それはCINRAの編集者になった後もそうでした。
それがShe isに繋がってくるんですけど。
自分が得意なことは言葉や文章かもしれない。
でも「それって何?」という。
血迷った私は、大学生の頃に、周りに「何になりたいのか?」と聞かれ「マルチクリエイターになりたい」と答えた。
そのこと、うんといじられてw
でも、その時はそれしか表現する言葉が見つからなかった。
今となっては、そのことに捉われる必要はなかったということも分かるのですが。
もともと言葉が好きで。
言葉自体もそうですが、詩や俳句に見られる「何か」と「何か」という関係性の中に生まれる二物衝撃のような言葉。
いろんな言葉の組み合わせで世界が立ち上がる瞬間がある。
既存のものの組み合わせによって世界像が出来上がる。
歌人の穂村弘さんは、「人は世界を見ているのではなく、それぞれの世界像を生きている」という意味合いのことを仰っていて、とても共感しました。
She isは、その世界像をいかに豊かにできるのかということをやっています。
She isという豊かな土壌
コミュニティは「土」だと思う。
土が豊かになれば、そこに植えられた野菜や果実も豊かに実る。
この場合、野菜や果実───収穫されるそれぞれが、「人」ということになる。
「よい土とは?」を考えることが、「よいコミュニティとは?」を考えることにつながる。
ひとつめとして、土は植物がじゅうぶんに根を張ることができる深さや硬さじゃないといけない。
次に、水はけがよく、なおかつ、豊富な肥料を蓄えていること。
これはコミュニティに置き換えても、ピンとくる話。
風通しがよく、じゅうぶんなパフォーマンスを発揮できる場所。
自由な言説と行動を支える土台みたいなもの。
そして、ここからがコミュニティとしてのオリジナリティの話になる。
「よい土」に必要なものは「豊かさ」。
豊かな土をつくるには、豊かな微生物の助けがいる。
枯葉や落枝をバクテリアが分解して、腐葉土に変えていく。
バクテリアたちが、さまざまな物質を生成して、土壌を豊かにしていく。
土のオリジナリティは、多様なバクテリアがつくる。
人も植物も、豊かな土にひたることで、豊かに育つ。
She isは豊かな土。
魅力的な野菜(人)をいろんな場所から集めてきて、She isというコミュニティ(土)で育てている。
それぞれの野菜(人)たちは、それぞれが育ってきた土(コミュニティ)のバクテリアを運んでいる。
それはミツバチが花から花へ花粉を運ぶように。
She isという土に運ばれたバクテリアは、そこで定住していた微生物たちと軽やかな摩擦を起こし(それは祝祭的な光景をイメージで)、さらに生成がすすみ、ますます多様性に富んだ、肥えた土になっていく。
2人は、実は「豊かな土」をつくっているんだ。
バクテリアは目に見えない。
でも、目に見えない、一見価値があるのかどうか分からないことが、豊かさにつながっている。
それはGirlfriendsたちの醸す〝覇気〟かもしれないし、〝熱〟かもしれないし、〝朗らかさ〟かもしれないし、〝悟り〟かもしれない。
明確な答えでなく、醸される何らかの目に見えない物質が、She isの豊かさとつながっている。
大切なので二度書くが、豊かな土は、豊かな収穫物を育てる。
今はまだ、世の中が注目していない人だとしても、豊かな土で育ったいつかの誰かは、突然進化した姿を見せるだろう。
オタマジャクシが蛙へと、あるいは、蛹が蝶になるように。
そんな「土いじり」───「コミュニティづくり」をしているShe isの野村さんと竹中さんのことが、すてきだと思った。
この見た目に穏やかな革命の威力は、はかりしれない。
今、もっともクリエイティブな活動なのかもしれない。
《She is》
自分らしく生きる女性を祝福する参加型のライフ&カルチャーコミュニティ。 一人一人がその人らしいかたちで存在し、生き方や選択を自分で肯定していけるようになるために。 ときめきや美しさを愛でる心を大切に、ときには詩的な感覚を通じて、社会や自分自身を問いながら、自由にのびのびと生きていく方法を育てていく場所。
《塾長:千原徹也》
デザインオフィス「株式会社れもんらいふ」代表。広告、ファッションブランディング、CDジャケット、装丁、雑誌エディトリアル、WEB、映像など、デザインするジャンルは様々。京都「れもんらいふデザイン塾」の開催、東京応援ロゴ「キストーキョー」デザインなどグラフィックの世界だけでなく活動の幅を広げている。
最近では「勝手にサザンDAY」の発案、運営などデザイン以外のプロジェクトも手掛ける。