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千原さんのおはなしvol.1(読む「れもんらいふデザイン塾」番外編)


第4期れもんらいふデザイン塾がはじまって1ヵ月───3回の講義が終わりました。 改めて、3回分の講義を振り返りながら塾長の千原徹也さんにお話を聞きました。

千原さんをもっとよく知るための、読む「れもんらいふデザイン塾」番外編です。 まずは記念すべき第1回の塾長挨拶から。

 

千原

講義は半年間あります。

京都の授業を通して感じるのは、塾生たちがだんだん仲良くなって次第に〝忘れられない仲間〟になっていくのが印象的で。

最終回は「涙無しには終われない」っていう感じになるのがまた一つの魅力でもあります。

全16回の講義では毎回違ったゲスト講師が登壇するのですが、大体このようなパターンというのは先生の話を聴いたら「お疲れ様でした」って終わっちゃうんですね。

れもんらいふデザイン塾では交流会をカリキュラムの中に組み込んでいて。

今日も20時からケータリングが出て、〝みんなでお酒を飲みながら話そう〟っていう時間があります。

そこで結構、打ち解ける。

講師の方々とも直接話すことができて、そこからインターンとして拾ってもらったっていうケースもいくつかあったり、やることが見つからなかった人が「やりたいことを見つけた!」とか、塾生同士の中で色んなものが生まれたり、ね。

そういう風になっていけばおもしろいかなって───。

 

嶋津

今回で3回目(ゲスト講師:レスリー・キー)ですが、終えてみての感想はいかがでしょうか?

千原

交流会を見ていてもまだみんなと喋ることができていない人もいたり、構えている部分が見えます。

〝れもんらいふデザイン塾〟というのをみんなまだ掴みきれていないのではないでしょうか?

そういう意味ではレスリーは盛り上げ役というか、良い意味で緊張感を持たなくてもいい人なので和やかなムードを作ってくれたのは大きかったかなと思います。

嶋津

レスリーさんの人間力にみんな心を鷲掴みにされた印象です。

講義中にも笑い声がたくさんありました。

千原

3回目にして、少しずつ仲間も盛り上がってきている。

1回目はどうしても探り探りの感じになりますよね。

あと2、3回重ねていけば、本当にみんなが仲良くなってくれるような気がします。

嶋津

講義を充実させることももちろんそうですけど、裏テーマと言いますか、千原さんの中では〝塾生たちの繋がり〟を重点的に考えていらっしゃるのでしょうか?

千原

そうですね。

極論を言ってしまえば、「トークはどこでも聴ける」から。

例えば、今回レスリーもレセプションパーティの話をしていました。

その気になればレスリーのトークを聴こうと思えば、そういう場所に行けば聴けるんです。

僕たちのやっていることのスペシャルな部分は別のところにあると思っています。

大人になった50人が集まって、毎週一つの話を聴く。

こんな機会はほぼないと思います。

学生の時は確かにあったかもしれない。

でも、それは学区内で偶然集められたメンバーで、さらに言うとまだ「これが好き!」というものが形成される前の状態ですよね。

友人はできるかもしれないけど、ここでの時間とは少し違うものだと思います。

ここに集まったメンバーはみんな似た思いが根底にあって。

だからこそ、絆は固くなって本当の親友ができたりする。

嶋津

友人というより、同志や戦友のようなものでしょうか?

千原

そうですね。

1期~3期の卒業生って、今だに塾生同士で一緒に飲みに行ったり、一緒に仕事をしたりしていることが続いているんです。

それがとても素敵だなと僕は思っていて。

この場所ではどちらかというと、講師の話を聴くよりも生涯の友人を見つけてくれたらいいなって。

交流会の時、一人もじもじしている塾生の女の子がいました。

どうやら人の輪に入って行くのが苦手な様子。

その子にこっそり近づいていって話しかける千原さん。

女の子が笑顔で話していると千原さんはこう言いました。

「今度から僕の隣にいるといいよ」

その子は驚いて、恐縮していました。

すると千原さんはこう続けました。

「コミュニケーションってどうやってできていくのかっていうのがきっと分かってくるから。

少なくともその輪の人たちとは話せるようになるしね」

〝場〟の空気作りを大切にする千原さん。

50人で作る空間というものをずっと考えています。

インタビューをしていて気付くのは、千原さんは塾生のことを〝なかま〟とか〝みんな〟って呼ぶんですよね。

「僕は今、すごいところで取材をさせてもらっているんだ」

この瞬間に立ち会った時、僕はそう思いました。

 

そして、もう一つ気になる点がありまして。

僕は千原さんがモデレーターという役割に徹しながらゲスト講師の話を引き出していくのを見ているのがすごく好きで。

相手によってアプローチを変えているところにいつも感心させられます。

言葉で引き出す人、ヴィジュアルで引き出す人、あえて途中で話すのをやめて相手に喋らせたり…

話のIQが上がり過ぎたら、ポンっと間を空けてあえてヘンテコなことを言ってみたり。

千原さんは優秀なペースメーカーです。

千原

僕はれもんらいふデザイン塾でいうと、120%ゲスト講師の回を楽しんでもらいたいんです。

そためのサポートですので、自分の話をあまりしないようにしていて。

でも、自分の話がきっかけで、相手の話が盛り上がるならばした方が良いなって思ったり。

あとは言葉の方がいいのか、ヴィジュアルや写真で伝えた方がおもしろいと思えるというところはその場その場で判断しながら進めています。

みんなの心に何か一つでも刺さってもらえるところを導ければって。

講師によってはたくさんポイントがあって、みんなも追いつけない時とかもあったりしますよね。

そういう時は自分が「ここのポイントが一番刺さったな」って感じた部分をもう一度、質問コーナーのところで聴いてみる。

繰り返して聴くことでもう一度そのことについて話してもらうようにしています。

嶋津

一人一人お話を伺いたいほどの面々で、またあの個性的なメンバーをモデレーターとしてまとめるのは大変だったのではないでしょうか?

千原

1つずつ作品を紹介してもらった後に、いかに印象づいてもらうか、ということを意識しました。

第1回はとても大事だと思っているのでここはしっかりと押さえておかないとなって。

1回目の講師によって初めて参加した人は「来てよかったな」と思うか「あれ?思っていたのと違うな」と思うのかが決まると思うんです。

回数参加していれば、色んな回があるうちの1回っていうのが分かると思うのですが。

難し過ぎてもダメだと思うし、簡単にサクッと終えられても困る。

うまく時間の配分を取りながら、みんなの関心を惹いていく。

嶋津

初回の印象で、れもんらいふデザイン塾に対する塾生のキモチも決まる。

千原

あとは心がけているのは、10分に1回くらいは笑ってもらいたい、ということ。

映画でも退屈させないように構成を立てるのと同じで、

恋愛映画なら10分に1回はキスシーンを入れて気持ちを上げなくちゃ、とか。

戦闘ものなら10分に1回はアクションシーンは欲しいですし。

それと一緒で、トークでも2時間の中で10~15分に一回は笑うということが重要かなぁ、と。

<第1回千原会>

嶋津

第2回の小西利行さんの回はいかがでしたでしょうか?

千原

今回のれもんらいふデザイン塾はタレントさんもゲスト講師で招いていて。

それで言うと小西さんはどちらかというと裏方の人だと思うんですよ

だから、〝POOLの小西さん〟と言っても「知る人ぞ知る」という感じで、知らない人も多かったと思います。

入口は「どういう人なのかな?」という感じでしたが、小西さんは会場の空気を一気に持って行ったじゃないですか。

仕事の中身とおもしろさで「すごい人だ!」って。

これはもう僕がいなくても良いなって思ったので、純粋に離れたところから見ることができました。

嶋津

質問コーナーの時に対話するという感じでしたね。

千原

質問の時は、みんなが「この人は一体千原とどういう関係なんだろう?」っていうことをすごく気にしてみているところがあるので。

仲の良さをある程度見せておくと交流会の時に塾生たちも話しやすくなると思うんですよ。

交流会が盛り上がるためにはそれは必要な要素だと思っているので。

なるべく短い中で「こんな感じでは話せるくらい仲良くて、警戒する必要がないですよ」っていうところを見せるところだなぁと思っています。

嶋津

全て〝場づくり〟という点を重きに置いて質問や引き出し方を考えていらっしゃるんですね。

千原

今日も時間がオーバーしていたので塾生からの質問で終わってしまっても良かったのですが、僕がレスリーに対してどういうことを思っているのかをあえて話しました。

それがあることで、「千原ってレスリーに対してこういう気持ちでいるんだ」ということがみんなの安心感に繋がりますから。

<第2回小西利行>

何度も何度も僕は千原さんについて同じことを書いていますが、千原さんは天性の〝作家〟だと思います。

アートディレクターだし、デザイナーだけど、根本は物語作家。

だから僕はインタビュアーとして、千原さんの口から講師の方々の話を聞いてみたいと思いました。

きっとキラキラした物語がこぼれ落ちてくるだろうから。

そういうことを伝えると、千原さんはちょっと黙ってからこう続けました。

「そういやレスリーはね、前に2つほど勉強になった話があって…」

それでは、少しだけ『千原さんのおはなし』を。

 

千原さんはレスリーと一緒に仕事で冬のパリに行ったことがあった。

その日は5、6人の仲間で深夜までゆっくり飲んでいたという。

良い時間になったので「そろそろ帰ろう」と、外に出るとタクシーが捕まらない。

すでに終電は過ぎていて、当時はUberもない。

歩いて帰るにもホテルまで2時間かかる。

街中がタクシー難民になっていて大変困った状況だった。

千原

地元の人は近くのバーで「朝まで朝まで待とう」という感じで。

僕たちは翌日も朝から撮影があった。

しかも凍えるような寒さだし、怖いし、なんとか帰りたい。

そこへ1台のワゴンタクシーが乗り場へやってきた。

タクシー乗り場は何十人も人が並んでいて長蛇の列でした。

そこへレスリーが割って入って行き、タクシーを止めてこう言った。

「300ユーロ(3万円)払うから乗せろ」

本当は30ユーロ(3千円)ほどで行ける場所なんです。

すると運転手は「カモン」と言って、僕たちはみんなでそのワゴンタクシーへ乗り込んだんです。

列に並んでいた人たちからは大きなブーイングが起こった。

中にはタクシーを蹴り出す人も。

タクシーはとてつもない勢いで走り出した。

ようやく車内で僕たちは落ち着いた。

すると一緒にいた女性が「レスリーさん、今のってちょっとヤバくないですか?」って言ったんです。

するとレスリーは「じゃあ君は今すぐ降りろ」と。

車内は張りつめた空気に。

「あなたたち日本人は危機感が全くない。

このままで僕たちは凍えてしまって、明日の撮影が台無しになったり、病気になったりしてもいいのか?

サバイバルな状況、戦争でも起きたら君は一番に死ぬぞ。

僕たちは生きていかなきゃいけないんだ。

生きることが大切で、タクシーの運転手の彼にとっても3万円は生きていくための一つの手段であり、僕たちにとってもそれを支払ってホテルに帰ることが使命なんだ。

それを良くないというなら、君は降りろ」

その言葉を聞いて「すごいなぁ」と思ったんですね。

<第3回レスリー・キー>

もう一つはとあるMV(ミュージックビデオ)の撮影の時の話。 プロダクションからのオファーでレスリーがMVの監督を務めることになった。

レスリーはカメラマンと言っても、基本的にはスチールなのでMVはそこまで経験がない。

MVの監督からすると〝素人〟なんですね。

あるアーティストの3枚目のシングルでMVの監督の話が来た。

実は1、2作目のMV監督は同じ人物で、当然のように3作目もその当人が監督を任されると思っていた。

しかし、有名人でもあるレスリーの方が影響力もあるのでプロダクションがレスリーに監督をさせたいという話になった。

前作(1、2)の監督は助監督に下がり、その上にレスリーが監督として起用された。

撮影日は険悪なムードだった。

その助監督の態度がね、ずっと悪かったんです。

レスリーはああいう人なので、それでも関係なく撮影を続けていました。

場所は六本木、遅くまで撮影が続き、外のシーンを撮るには光度が足りなくなった。

「ライトを立てろ」とレスリーが指示を出したんです。

するとその助監督が「もうライトがないのでこのままいきましょう」と言った。

でも、そこにライトがあるのが見えているんです。

さすがにレスリーも分かっていたので「いや、あるじゃないか!」と。

早く撮影を終えたい助監督。

「こんなところ(六本木)でライトを立てたら警察がすぐに来ちゃいますよ」と

撮影を早く終えようとした。

そうしたらレスリーが走ってるタクシーを止めて、運転手に1万円を渡して「車のライトを当てろ」と。

それを見た助監督以下のスタッフが焦って、ライトを運んできて「レスリーさん、すみません!」って。

レスリーがその助監督にこう言った。

「今日一日、君の態度が悪いことを僕は分かっていた。

そんなに助監督にさせられたことが気に食わないんだったら、もっと仕事をまじめにやれ。

〝ここでライトを立てれない〟とか〝警察が来るから監督のいうことをきけない〟なんて言ってたら、君は本当のプロの映像作家にはなれない。

そんなことやっているから君自身が有名人になれない。

だから上に有名人が来てしまうんだ。

有名人が上に来るのは当たり前だろ」

それは隣で聴いていて「すごいな」と思いました。

この2つは強く印象に残っていて、自分の色んな糧となっています。

その後、その映像カメラマンは打ち上げの時にずっとレスリーの話を前のめりで聴いて「はい!はい!どうもありがとうございます!」って。

そういう素敵な話でもあるんですけどww

そう言ってケラケラっと笑った千原さん。

千原さんの話す物語はいつもキラキラしている。

「あぁ、いいなぁ」って思う。

***

取材の終わりに、塾生の一人が千原さんの元へやって来てこう言いました。

「私、れもんらいふに入りたいです。採用募集していますか?」

すると千原さんはレスリーと話していたのと、そして僕に話していたのと、全く同じトーンで、

「今はうち募集してないですけど、愛ちゃん(れもんらいふスタッフ)と連絡先を交換しておいて」

と言いました。

僕が「募集していなくても、入れることもあるんですか?」と訊くと、

「想いがあれば、ね」

そう言って少しだけ照れるように笑いました。

このあたたかさを保とうとすると、きっとれもんらいふのスタッフさんたちの対応は大変だろうけど、そんな千原さんのデザインが好きで、千原さんの志が好きで、千原さんという人間が好きな人が集まる会社なんだと思って。

僕もれもんらいふが大好きになりました。

性別関係なくパーソナリティとして相手を惚れさせる千原さんの〝人〟としての魅力。

うまくいった話だけじゃなく、しっかりと自分のダメだったところや失敗談も話すところも全て。

何よりみんなが嬉しいのは、「ちゃんと自分の話を聴いてくれる」というところだと思います。

何だろう、話すより、聴くことの大切さというか。

「あ、千原さんがわたしの話を聴いてくれた」っていうのは、その人にとっての生涯の宝になるかもしれません。

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