読む「れもんらいふデザイン塾」vol.10

February 8, 2019

 

2019年に入り、れもんらいふデザイン塾ではワークショップがはじまった。

講師は塾長の千原徹也さんとアーティストのとんだ林蘭さん。

55名の塾生はそれぞれ10チームに分かれ、マグネット109のリニューアルの企画とそのビジュアルを考案する。

ワークショップの期間は2日間。

3週目───2月2日のプレゼンによって決定された案が、実際にマグネット109のヴィジュアルに使用される。

 

 

Making You SHINE! Project

 

様々な刺激体験と若い人が活躍できる実験装置的な施設に───コンセプトは〝裏切るシゲキ〟。

新しい世代の〝夢〟が星の数ほど集まることで、渋谷は「世界一のエンタテイメントシティ」へ。

社会全体が希望に満ち、新しい世代に生きる彼ら(彼女ら)が活力ある未来を描けるようになってほしいという願いを込めて。

 

魅力溢れる良質な刺激の創造を。

マグネット109が掲げるメッセージ。

 

 

リチャードソン千尋(マグネット109)

マグネット109は2018年に開業しましたが、リニューアルによってさらにパワーアップしたイメージに。

一年を通して使用できるヴィジュアルにしていただきたいと思っております。

 

「渋谷109」と言えば、ギャル、ファッションというワードが頭に浮かぶ方が多いと思います。

私たちはそれらのワードよりも夢や、行動を起こす方をサポートしたいという気持ちで会社を運営しております。

新しいヴィジュアルにはそういったメッセージが込められたものになれば、と思っております。

 

 

この時、僕たちにはこの数週間に渡って育まれるものが、どういった種類のものなのか想像もつかなかった。

最初のインタビューの時に塾長の千原さんが〝場づくり〟の大切さについて話してくれたことを、3週間後、僕は思い出すことになる。

〝場づくり〟───空気さえ作ってしまえば、奇跡はゴロゴロと勝手に生み落とされていくのかもしれない。

 

〈とんだ林蘭〉 

 

今回、塾長の千原さんと共にワークショップの講師を務めるとんだ林蘭さん。

予定にはなかったが、急遽30分間の特別講義が開かれた。

 

 

千原

今回はあまり時間が割けないのですが、塾生から「とんだ林さんの話を聴きたい」という声が多く。

手短な講義をしてもらうことにしました。

 

とんだ林

私は109が本当に大好きで。

茨城県の田舎のギャルだったのですが、毎週末、一時間くらいかけて109に通っていました。

ですので、109さんとお仕事ができるようになったのは私にとっては大きな意味がありました。

 

 

とんだ林

これは16、17歳───高校生の頃の写真です。

赤い方が私です。

 

千原

すごいね、ギャルだったんだ。

 

とんだ林

今回のマグネット109さんのリニューアルはこの写真のイメージから変えていきたいということだと思うのですが。

 

 

会場www

 

 

千原

この写真自体が時代を感じるよね。

 

とんだ林

そうですよね

今見かけないですよね。

 

千原

とんだ林さんって色々な多面的で、色々な角度で知る人が多いですよね。

分かりやすく紹介するには、どういう肩書になるのかな?

 

とんだ林

そうですね。

一応〝アーティスト〟と答えるようにはしています。

 

 

(コラージュの映像作品が流れる)

 

 

これらは仕事ではなくて、空き時間に勝手に作っていました。

誰に依頼されたというわけでもなく、〝自由に作る〟ということが私のベースになっていて。

それが今でも大切にしていることです。

 

千原

作品であって、依頼されたものではない。

 

とんだ林

そうですね。

「ただ好きに作っている」という。

 

千原

コラージュはずっと前からやっていたってこと?

 

とんだ林

実は私は漫画家になりたくて───それが25歳の頃。

 

今の仕事をするまで、OLをやっていました。

お茶出しとか、近くのドトールにコーヒーを買いに行ったり。

 

単純な仕事で、夕方に終わるので時間は有り余っていて。

毎日、暇な時間を過ごしている中で「好きなことを仕事にしたいなぁ」と。

 

絵は昔から好きで、ラクガキ程度だったのですが。

 

千原

OL時代?

 

とんだ林

はい、最初はペンでしか描けませんでした。

 

一応マンガも描いていて、出版社の編集部に持ち込みにも行きました。

独学で描いていたので、自分なりの絵しか描けないし、とにかく背景が全く描けなかった。

編集部の人にダメ出しされて、泣きながら帰りました。

 

千原

編集部に持ち込んで、ダメ出しされて泣きながら帰る。

オーソドックスなイメージの通りだね。

 

 

とんだ林

本当にそうですw

編集の方はとても優しかったのですが、その優しさが逆に辛くて。

「全然ダメだなぁ」と。

今でも漫画家さんは一番憧れの強い職業ですね。

 

そこから一回視点を変えて、「イラストならできるかも」と。

下手だったんですけど、「毎日一枚描いていれば一年後には絶対によくなってる」と思って。

 

千原

いいですね。

その前向きな気持ち。

 

とんだ林

〝前向き〟でしかなかったですね。

美大は行けなかったので、パソコンもできない。

だから紙とペン。

でもお金がかからなかったのでそういう意味では良かったですね。

 

5分あれば一つ描けるので、それを続けてみようと。

 

 

とんだ林

だんだん白黒の世界に飽きてきて、「コラージュをやってみたい」という気持ちになりました。

雑誌を切り抜いてパーツを集めて並べるとことからはじめて。

紙の上で自由に組み合わせる。

 

千原

とてもシンプルなコラージュだね。

 

とんだ林

それがすごく楽しかったんです。

テンションが上がって。

コラージュが大好きになって、でもペンで描くのも好きだし、キャンバスに絵具で描いてみたりとか。

色んなことを自分が飽きないようにやろうと思って作り続けました。

 

結果的に、手法が増えていったという感じですね。

 

OL時代ですが、半年に一回くらいのペースで個展を開いていて。

場所は小さなお店の中で。

 

とあるギャラリーに声をかけていただいて。

そこで展示するようになってから、知ってくださる方がだんだん増えてきました。

 

今は仕事の割合が多くなってきているのですが、基本的には一人で自由に作ることがベースにあって、そのライフワークを大切にしています。

 

 

アーティストあいみょんのアルバムジャケット

Zoffサングラスコレクション2018ビジュアル

セリーヌのトリフォルドのコラージュアニメ

最近では、アーティスト崎山蒼志のロゴ

 

気鋭のアーティスト〝とんだ林蘭〟は次々とその独自の感性でアートワークを世に送り出していく。

 

東京MAGNET by SHIBUYA109(マグネット109)の新ビジュアルとして女優の安達祐実を起用してとんだ林蘭は千原徹也と共にアートディレクションをした。

 

 

とんだ林

誰の下にもついたことがないし、デザイン会社で働いたこともないので、他の方がどうやっているのかが全然分からなくて。

全て自分なりの方法でやっています。

 

だから千原さんと安達祐実さんのヴィジュアルでダブルAD(アートディレクター)になった時は、「千原さんの普段のお仕事を勉強しよう」と。

 

千原

何も参考にならなかったでしょ?ww

 

とんだ林

最初手書きでラフを描いていて。

何度かラフを更新しながらお渡ししていたのですが、一度コラージュで写真を作ったら千原さんが「手描きの方がよかった」って。

 

千原

うん、おもしろかった。

 

とんだ林

「手描きの方が伝わるんじゃない?」と言ってくれて。

「こんなのでいいのかな?」と思っていたので、すごく嬉しかったです。

 

千原

よかった。

合成の方が伝わる人もいるしね。

その人の個性が最も出る伝え方が一番良いと思う。

 

とんだ林

千原さん作ったウンナナクールのラフ。

クオリティが高いなって思って

あれが普通ですか?

 

千原

あれ、まだラフな方がじゃない?

 

とんだ林

そうですか?

私のって結構ヤバイですか?

 

 

会場www

 

 

千原

これがいいんじゃないの?

多分クライアントさん、これを出されたら「あぁ、これがアーティストか」ってなるでしょ。

 

 

とんだ林

私の場合は〝毎日違う仕事を違う手法で作っている〟という感じです。

 

千原

イラストとコラージュの両軸がアートディレクションになっていったりする感じだよね?

 

とんだ林

イラストは頭の使い方が全く違っているので、別物という感じではありますね。

コラージュの考え方が主軸になっているかもしれません。

 

 

「こういう組み合わせをしたらおもしろいかなぁ」とか。

言葉で説明できれば良いのでしょうが、それが出来ないのでなんとなく手を動かして。

コラージュというのは止めどころがないので、どこで終わらせるのかというのは難しい点ですね。

 

千原

そうだよね。

やろうと思えばいくらでもできそうだ。

 

とんだ林

過剰にしようとどこまでも思えばできる。

反対にシンプルにもできる。

 

その日の自分が「良い」と思うところまでを。

その辺の感覚は、数を作っているので掴めてきますね。

 

〝数で勝負〟というところはありますね。

 

 

このパートは読み飛ばしてもらって構いません。

少しだけ、僕の言葉で感想を書かせてください。

 

 

たった30分だったけれど、とんだ林さんの講義は僕にとって大きな実りがありました。

僕は、言葉に頼り過ぎていたのかもしれません。

 

とある現代アーティストの言葉を思い出しました。

 

「アートっていうのは、喋るのが下手な人のトークショーなんですよ」

 

決してとんだ林さんが喋り下手だと言っているわけではありません。

〝言葉に頼っていない〟ということの方が本質的で。

能動的に「感じたい」と思わせる力───そこに強く惹かれました。

 

 

世の中でには「分かるように話せ」という要求で満ち満ちています。

その傾向は次第に強くなりつつあり、「例えば」「具体的に」「端的に」という暴力的な便利さからはもう逃れることはできません。

だけれども、言葉で答えてしまえば、余韻もなくそこで全てが終わる毎日で。

とんだ林さんの講義で、自分が向き合っている文章の〝野暮さ〟を目の前に突き付けられた気持ちになりました。

 

 

 

最近、僕はとあるインタビュー取材で大失敗をしました。

とても尊敬する方です。

僕が持っている力を全て出し切ろうと精一杯で挑んだことに嘘はありません。

相手のことを徹底的に調べて下準備をしました。

今までにない切り口によって、相手の未知なる言葉を求めました。

 

実際にインタビューがはじまった時、僕が用意した質問はことごとく空振りしました。

僕が聴きたい内容に対して、相手は興味を示しませんでした。

それは決して悪意のある態度ではなく、むしろあたたかい───できる限り僕の想いに応えようとするやさしさに満ちていました。

そのやさしさに胸が締めつけられる想いでした。

 

 

 

「本当に言いたいことは〝伝えきれない気持ち〟の方で」

 

これは糸井重里さんの言葉です。

「伝わった!」という喜び以上に、「こんなにたくさんあって伝えきれない!」ということの方が大切なのに。

そんな大事なことを僕はどこかで見落としてしまっていました。

 

あらゆるものには〝答え〟があると思っていて。

本当は、そんなものはなくて。

その瞬間になんとなく感じるものなのに。

言葉で全て説明しようとしてしまう。

それがいかに〝野暮〟なのか。

 

 

今になって思えば、あの時どうすればよかったのかというと、ただただ感じていればよかったのだと思います。

答えを求めず、その人の持つ〝何か〟に寄り添い、感じているだけで。

その形ないものを言葉にすることが僕の本当の仕事であるはずなのに、僕は相手に〝答え〟を求めてしまっていました。

 

〝野暮ったいもの〟を解消するのは、何なのか。

文体かもしれない、音の響きかもしれない、空白かもしれない。

 

僕にしかできないこと。

誰かの答えではなく、〝僕の中の答え〟の方が本当は重要だったのだ、と。

 

 

この講義を通して、千原さんの数々の言葉を通して、そして塾生たちのプレゼンを通して気付かされたこと。

それは実感を伴った、歩幅は小さいけれど、大きな大きな一歩でした。

 

 

塾生たちへの参考のため、塾長の千原さんは自身の手掛けたune nana cool(ウンナナクール)の広告ヴィジュアルを紹介した。

 

 

千原

コピーを小説家の川上未映子さんが考えた上で、そこに合うヴィジュアルを考えました。

 

「わたし、いい度胸してる」

 

女の子がこれから生まれ変わって、もっともっと自分が夢に向かってがんばっていく。

〝夢に踏み出す〟ということを心の内に秘めている。

 

顔が出ているよりも〝心の中で思っている〟という意味を込めて、「髪の毛で目や表情を隠すことで心の内を表現しよう」と。

顔のアップ、実際に風を受けている横から、川上さんの詩が入る。

そのようなラフを描きました。

 

タレントさんは当時、乃木坂46を辞めたばかりの伊藤万理華さんを起用して。

ある種、彼女自身も辞めたことで自分を変えて行く───「わたし、いい度胸してる」に重なるようなストーリーがあって。

 

 

この屋上はイメージの中で漠然と描いていたのですが、ロケハンしていると偶然ぴったりの場所を見つけることができたんです。

 

〝普通の人〟───世の中の一般的な女の子のイメージを出したかったので、素朴に映ることが大切で。

 

都内だと六本木ヒルズが見えたり、都会を彷彿させる高いビルが映り込んだりしてしまう。

意図的に空が大きく広がる〝何も見えない場所〟を探しました。

 

結果的に、東京感(都会感)のない場所で、普通の人っぽくなりました。

 

 

2週に渡って行われたワークショップ。

 

その後、僕は千原さんの言葉を聴いた。

デザインの楽しさ、プレゼンのおもしろさ、そしてその難しさ。

この言葉に出会ったことでより一層、当日の塾生たちのプレゼンは僕の中でスペシャルなものとして輝いた。

 

プレイヤーとしての彼ら(彼女ら)だけでなく、周りにいる人たちが涙を流していた。

その中の一人に入れたことが何よりも幸せだった。

 

 

千原

大体みんな一生懸命考えるんですね。

 

一生懸命やること=マグネット109さんがやりたいこと

 

それが正しいことだと思って真正面から考える。

そうすると、マグネット109がどういうビルで、どういう店舗が入っていて、どういう人に来てほしいかというところを真面目に見ていくことになります。

 

時勢的に〝平成最後の〟とか「あの場所はギャルの聖地だ」とか色んなことを調べてがんばりますよね。

10チームいるとすると、10チームが同じことを調べているんです。

それをまず分からないといけない。

つまり〝同じことを全員が調べている〟ということです。

 

同じことを調べているということは、大方答えも同じになります。

小渕さんが平成という紙を出して、そこに新しい109のことについて掲げるというアイディアが5、6個出てきました。

正面から行くとこうなってしまう。

 

 

あのシーンをパロディにするというのは最初にみんなが思いつく禁じ手なんですね。

 

あと、〝マグネット〟という言葉から〝磁石〟を発想するパターン。

〝二つの刺激〟という意味で、全く相反するものが1つになるというパターン。

大体その3つに落ち着いていてきます。

 

〝真正面から考える〟というのは、どこかでそうやって教わってきているんだと思います。

でも、そうすると視野が狭まるんですね。

 

 

もっともっと気にせずおもしろいことを考えないと印象に残すことはできない。

10チームほぼ全てが〝磁石〟のアイディアを出しています。

109さんからすると〝マグネット〟という名前なので〝磁石〟はもう見飽きていると思うんです。

 

今さら磁石の案を出されても、よほどの新鮮さがないと失望させてしまう。

考えてみればマグネット109さんたちは毎日〝マグネット〟のことについて考えているんですよ。

僕たちの発想する〝マグネット〟は、限られた時間の中でしかない。

その中で、クライアントさんよりもおもしろいことを考えなくちゃいけない。

 

クライアントさんはプロにお金を出して頼んでいるのであって───つまり、自分たちはプロではないから頼んでいて───クライアントさんが発想できないことじゃないと仕事にはならないんです。

 

真正面から考えると、コンセプトに沿ったアイディアしか生まれない。

それは既にマグネット109さんたちも考えていることなので、実は全然関係のない───遠いところからアプローチしないとダメなんですよね。

 

嶋津

真正面に立たず、尚且つクライアントの発想の外に立つ。

 

千原

一番良いのは〝自分がなぜ考えているのか〟ということを考えることです。

 

 

《千原さんのおはなしvol.5》へとづづく

 

そして、次の週。

僕たちはかけがえのない90分を体験する。

 

れもんらいふデザイン塾って楽しい。

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