人生の選択は〝おもろいorおもろない〟

July 19, 2018

 

STANDARD BOOKSTORE

 

 

大阪の心斎橋にその本屋はある。

 

 

扉を開けると、ココロが踊る。

芳ばしいコーヒー豆の香り、新しい紙の匂い、ページをめくる微かな音、そして息をひそめるような静かな吐息たち。

───それらは幸福なざわめき。

 

 

ここに集まった者たちが共犯的につくり出す〝静けさ〟が、それらの存在をより際立たせる。

〝協力〟ではなく〝共犯〟という言葉がしっくりとくる。

それは子どもの頃に感じた胸の高鳴りがそこにあるから。

 

 

空間の中に彩られたアートワーク───本、雑貨たちは見る者の視界を楽しませてくれる。

無作為に並んでいるようで、〝あるべき場所〟にそれらは置かれていて。

アートワークからアートワークへ、背表紙から背表紙へ、グラデーションで視界が移ろっていくことが心地良い。

〝並んでいる〟中に物語が見える。

ほんの少し、自分の中のクリエイティブを引き上げてくれる。

 

 

 

それは、<陳列と展示の狭間>。

 

 

 

収集したものをカテゴライズし、そこから生まれる関係性に新たな視点が生まれる。

ここに商品を置いた〝人〟が見える。

 

 

 

そんな不思議な本屋。

 

 

 

 

 

 

STANDARD BOOKSTOREは本・雑貨・カフェの店。

 

2006年の11月に心斎橋に一号店がオープンした。

商品のセレクションに創造性があり、また棚に置いてある本をカフェで読むことができるスタイルは画期的だった。

その〝個性的で、解放された感覚〟に人は惹きつけられた。

その後NU茶屋町店、あべの店、と数を増やしていく。

 

 

〝本屋ですが、ベストセラーはおいてません。〟

 

 

STANDARD BOOKSTOREといえば、このキャッチコピーが印象的だ。

ユニークでかつ、挑発的な含みがある。

異ノーマル感が内包されたこの一行に様々なストーリーを感じる。

「スタンダード」とは言いながらも世の中の〝スタンダード〟とは逆を向いているんじゃないの?という疑問も含め、この店をつくった人の言葉を是非とも聴いてみたかった。

 

 

今回、STANDARD BOOKSTOREの代表である中川和彦さんにインタビューをさせていただいた。

たった一時間足らずのやりとりは〝驚き〟と〝発見〟で満ちていた。

それはインタビューがはじまった瞬間から───。

 

 

 

 

嶋津

本があり、雑貨があり、カフェがありというお店のスタイルはオープン当初からですか?

 

中川

開業時から基本的には同じパターンです。

今でしたら当たり前のようになってきてはいますが、当時(2006年)はこのような形態の店はありませんでした。

 

もともと器を見たり、文房具を見たりするのが好きで。

「本と一緒にこのようなものがあればいいな」と。

そんな発想でした。

 

嶋津

〝本〟だけに縛られない、という空間。

「本屋は本を売っているもの」という感覚から抜け出すことって意外と難しいと思います。

モデルとなる店が世に出る以前の話だとすれば特に───。

 

中川

そうですね。

漠然と「こういう店をしたい」っていう話を出版社の人間や友人によくしていたんです。

あまり共感は得られなかったけど、「オレみたいな感覚の奴がどこかにいるだろう」と思っていました。

 

嶋津

なんというか…外側の発想ですよね。

書店業界の中に馴染んでいればなかなかこのようなアイディアは出ないような気がします。

コロンブスの卵のように、形になれば簡単な話なのかもしれませんが。

 

中川

僕、実は本がめちゃくちゃ好きだったわけではないんですね。

 

嶋津

え!?

 

中川

以前は百貨店で本屋をやっていたんです。

 

 

 

人は〝思い込み〟の生き物だ。

本屋は「本が好きな人」が経営するものだと疑いなく考えてしまう。

それがすばらしい本屋ならばより一層のこと。

 

中川さんが本屋という仕事に就いたきっかけは、中川さんの父が営んでいた百貨店の本屋を継いだことから。

自ら望んでこの職に辿り着いたわけでなく、むしろその瞬間はあまりにも唐突に、そして暴力的に訪れた。 

 

 

 

中川

ある日、母親が僕を呼びだしてね「お前には言うておくわ」って。

 

 

 

「お父さん、癌や」

 

脱サラして百貨店で書店を開業した父親。

夢新たに、第二の人生を歩み出したその最中のことだった。

 

 

 

中川

父は僕が大学に通っている途中で脱サラして本屋をはじめたんですね。

僕ら家族もびっくりして、「えー?何考えてんの?」っていう感じで。

しかもその直後に体の調子が悪くなって。

「え?ちょっと待って……これ死ぬんちゃうん?」って。

 

 

 

宣告を受けたのは余命三ヵ月。

 

 

 

嶋津

まだ大学在学中ですよね?

その時の心境はどのようなものだったのでしょうか?

 

中川

自分の人生にそういう展開がくるとは思っていませんでしたから、それは驚きました。

「おいおい、こんなんテレビでもよくあるよな!」って。

 

僕、長男なんですね。

「ちょっと待てよ、これ親父が死んだらひょっとしたらオレが本屋やらなあかんのちゃうのん?」って。

 

嶋津

突然の事業継承。

 

中川

絶対嫌やんけ!ってwww

 

嶋津

嫌だった?ww

というか、確かにそうですね。

もともと経営者の息子として育てられたわけではないですものね。

〝心構え〟の期間が短い。

 

中川

だから本屋という職に就いたのは親父がやっていたから仕方なく。

僕しか継ぐ人間がいないからやっただけで。

借金もたくさんあったので継がざるを得ない状況でした。

 

嶋津

やむなく進んだ道だったんですね。

 

中川

三ヵ月と言われたけどなかなか死なないんですよ、これがまた。

どうなんの?どうなんの?どうなんの?って。

そこからずっと「親父、いつ死ぬんやろ」って思って過ごしていました。

 

 

 

三年ほどして中川さんの父親は亡くなった。

 

 

 

 

 

書店業界という枠の外にいる存在。

中川さんは完全に外側の人間だった。

 

 

新たな発想はいつだって外側から生まれる。

運命は業界に異端児を産み落とした。

 

 

父親を亡くしたのは、中川さんが26の年になる頃───。

百貨店では20代そこそこの若者が社長になるということは異例中の異例だった。

よほど大きな会社の御曹司以外ありえない話だ。

 

「こんな頼りない奴大丈夫か?」

 

周囲の目はそう物語っていた。

百貨店のことも知らないし、商売のことも知らない。

本屋のこともほとんど分かっていない。

 

父親の片腕のような存在だった人まで離れていった。

文字通り孤立無援の状況だ。

 

 

 

中川

周りは「この会社大丈夫か?」みたいになるわけですよ。

基本的に百貨店側から見ればうちの会社は「ほんましょうがないなぁ奴やなぁ」という感じですよ。

そんな空気の中、僕が「こんなん(カフェ付きの本屋)やりたい」とか言うものだから、もう呆れてましたねww

 

嶋津

百貨店は〝町の本屋〟よりもずっと規律が厳しいイメージです。

 

中川

縦割社会です。

雑貨を書店に置くという発想は理解できたとしても、他店との兼ね合いなどもあり物理的に難しい。

 

 

 

百貨店では中川さんの理想の店は実現できなかった。

ただ「いつかあんな店をやりたいなぁ」というのは頭の中にあった。

 

それからしばらくして中川さんは定点観測のために定期的にアメリカへ行くようになる。

そこでの体験がSTANDARD BOOKSTOREの核を形成していく。

 

※定点観測…変化のある事象について、一定期間、観察や調査を続ける事

 

 

 

中川

向こうにはバーンズ・アンド・ノーブル(Barnes & Noble, Inc.)という全米一の書店チェーンがあって。

そこには必ずスタバがついていたんですね。

〝カフェのくっついている本屋がある〟という話は聞いたことがあって、「それを見たいなぁ」と。

 

 

 

カフェで本を読んでいる人たちを見て感動する。

買わなくてもカフェエリアで本を読めるというのは画期的だった。

 

 

 

中川

簡単に言うと向こうのスタイルをパクッてやっているわけですよね。

当時の日本にはスタバさえなかった。

そもそも、あのようなエスプレッソ系のアレンジコーヒーを出す店も珍しかった。

だからその光景を見た時は「これいいよな」と思いましたね。

 

嶋津

日本にはまだ喫茶店しかない時代ですよね。

 

中川

そうですね、〝カフェ〟っていう言葉もあまり聞きませんでした。

 

 

 

そこから数年後───

2006年、百貨店と並行してSTANDARD BOOKSTOREはオープンした。

 

 

 

中川

最初はチェーンストアを目指していたんです。

名だたるチェーンストアがこぞって参加しているセミナーに通いました。

誰もが耳にしたことのある大型の企業は軒並み見かけました。

 

そこで教えられたことは、チェーンストアをするなら基本的に〝200店舗ないと駄目〟ということ。

少なくとも200店舗ないとご利益は出ないわけです。

ご利益がなければ世の中のためにもならない。

 

 

 

セミナーで知り合った人が中川さんの店を見に来たことがあった。

「よくこんな店をやっているなぁ」と驚き半分、呆れ半分。

それもそのはず、STANDARD BOOKSTOREはチェーンストアと真逆のことをやっているのだから。

 

 

 

中川

ジキルとハイドのようなもんですよね。

 

嶋津

確かに、チェーンで成功するということはマニュアルがきっちりしていないといけない。

でも中川さんのお店って自由で多様性に溢れているww

 

中川

チェーン展開して成功すれば漠然と「世の中のためになるんだろうな」と思っていたんです。

でも、だんだん違うような気がしてきてね。

飲み食いするのは好きだけど、「ファストフードとか大丈夫なの?」とか「そもそもコンビニで売っているようなものってどうなんだ?」っていう疑問が出てきた。

それで行かなくなったんです。

 

 

 

 

 

STANDARD BOOKSTORE

 

〝STANDARD〟は〝標準〟を意味する。

かといって、STANDARD BOOKSTOREは〝世の中の標準的な書店〟ではない。

 

 

僕はここにある仮説を立てた。

中川さんの名付けた〝STABDARD〟は〝未来〟に対する志なのではないか?、と。

 

 

中川さんの話に耳を傾けていて気付かされることは〝自由〟に対するナチュラルな感覚だ。

言葉の節々に〝自由〟を愛し、〝自由〟に憧れ、〝自由〟と共存する姿が見て取れる。

 

 

〝自由を宿す未来〟───自由な感覚を尊重する世界にこそ〝STANDARD〟であるべきなのではないか、と。

 

 

 

嶋津

〝本屋ですが、ベストセラーはおいてません。〟というキャッチコピーが印象的です。

本や雑貨のセレクションは中川さんですか?

 

中川

全くというわけではないですが、ほとんどやっていません。

99.99%やっていないですw

 

嶋津

それではセレクトされるのは?

 

中川

スタッフがやっています。

最初は僕がやっていましたけどね。

ただ、書籍担当者の楽しみは本を選んだりとか、並べたりすることなので、その仕事を奪うのは良くない、と。

「これを入れろ」と物が送られてきて並べるだけというのはやりがいがない。

担当者の仕事の喜びを奪ってはいけない。

 

嶋津

選んだり、陳列するところにクリエイティブが生まれます。

一応、枠のようなものは作っていらっしゃるのですか?

〝STANDARD BOOKSTORE〟というイメージのための外枠。

色んな担当者さんがいたらイメージと合わないものが出てきたりしそうですが。

 

中川

出てくることもありますが、でもそれを「この枠で」とは言えない。

言えたとしても〝なんとなく〟でしか言えませんよね。

 

嶋津

僕はそこがすごくおもしろいなと思っていて。

枠を作らないけども、「枠を作らない」ことがSTANDARD BOOKSTOREのカラーになっている。

 

中川

そもそも僕自身、人にごちゃごちゃ言われるのが嫌なんですwww

だからスタッフに「あれせぇ、これせぇ」っていうのはできるだけ言わない方がいいと思っています。

ものすごく大層に言えば、〝自由であること〟が大事だと思っているんですよね。

曖昧ですが、〝自由な雰囲気〟というものが出ればいいかなぁ、と。

 

嶋津

ある程度、自分の意志が尊重されるべきだ、と。

 

中川

そっちの方が働いていてオモシロイでしょ。

イメージはめちゃくちゃ長いリードを僕が持っていて、皆が動ける範囲はかなり自由になっている。

「ちょっとおかしいな」と思ったら、手綱をキュッキュッと引くくらいで。

 

  

それをやっているうちに、よっぽどの人間でない限りスタッフも「ああ多分これはやったらダメだな」とか考えてくれるでしょう。

だから〝OK〟と〝NG〟の境界線はぼやけていていいと思うんですね。

何が良いのかは明確に分からない。そんなのはこっちだって分からないですしね。

 

嶋津

ぼやけている方が遊びの部分が多い、と。

 

中川

そうですね。

あんまり細かいことはいいかな、と。

そもそも無理なんですよ、本なんて。

 

だって毎日増え続けるんですよ?

それなのに無くなっていくアイテムってほぼない。

古事記や日本書紀からはじまって、今出てきた本まで扱っているということなんです。

もちろん絶版とか在庫がない商品というのはありますけど、でも問い合わせは入ってくる。

 

考えてみれば異常な商売なんですよ。

そもそもきっちりと決めごとを作る方が土台無理な話なんですよね。

 

 

 

 

 

本屋という〝場〟。

 

中川

そもそも本屋って何も買わなくてもふらっと入れるという特殊な形態じゃないですか?

買わなくても罪の意識がない。

 

立ち読みをしていてもいいし、店員がすり寄ってくることもほとんどない。

で、立ち読みだけして買わずに店を出ても罪悪感はありませんよね。

服屋さんだったら声をかけられたとしたら出ていく時に少なからず〝なんか嫌な感じ〟が残ってしまう。

 

嶋津

言われてみれば確かにそうですね。

 

中川

本屋って、そういう煩わしさが全くないすばらしい商売だと思うんです。

経営はしんどいけどね、〝場〟としてはすばらしいと思うんです。

だからそういう〝誰でも入ってきやすくて、誰でも出ていける〟ような雰囲気をできるだけ損ないたくない。

 

例えばカフェにしても…

 

 

 

STANDARD BOOKSTOREのカフェでは本棚に置いてある本(商品)の持ち込みが可能だ。

コーヒーを飲みながら、またはホットドックを食べながら、店の本を読むことができる。

 

 

 

中川

「カフェに本を持って入るなんて!」という声がたまに届きます。

 

〝何冊まで〟とか、書いてある店ってよくありますけど、あれはやりたくない。

そうしてしまうと、「3冊持って入っている人いるで」とか「あの人5冊持っていったよ」とかみんな言い出すと思うんです。

 

嶋津

ぎすぎすしますね。

 

中川

「そんな監視員みたいな仕事楽しいのか?」っていう話になる。

「もうええやん」と。

 

店が「ええですよ」って言ってるなら、「もう別にええやん」って。

これが著者の方に迷惑をかけていることが明らかになれば考えなければいけないと思いますが。

 

嶋津

確かに、読んだからと言って買わないことにはならない。

むしろ読んでしまっても面白かったら買いますよね。

 

中川

おもしろかったら最後まで読んだとしても買う人だっています。

力のある本だったら〝読んだ〟〝読んでいない〟は関係ない。

 

そもそも立ち読みができるのだから、と僕は思うのですが。

「たまたまコーヒー飲めるだけやん」と。

 

嶋津

紙の本に対する想いとかありますか?

雑貨にも言い得ることだと思うのですが、紙の本が持つある種のファンタジー性といいますか、そういう魅力について。

 

中川

どちらかと言うとあまりないんじゃないですかね?

〝紙が嫌〟とか〝紙が大好き〟とかそういうのはありません。

 

単純な話、紙じゃないと売れないんでね。

ただそれだけの話で。

これがもし一切合切、全て電子書籍に変われば、「やめなあかんなぁ」というだけの話ですよね。

 

嶋津

違うサービスやシステムが入ってきたら、全然そっちの方に移りますよ、と。

 

中川

まぁそうなった時にしか分からんですけど。

要は自分が「おもしろい」と思えるかどうかなので。

 

新しいサービスが「おもしろい」と思えたらやるし、思えなかったら別のおもしろいものを探すしかないなぁと思うし。

まぁなくならないとは思いますけどね。

 

販売冊数は落ちていくと思いますが、出版する人は増えていくのではないでしょうか?

 

嶋津

出版社を介さずに〝個人で本を作る〟ということですよね?

 

中川

大きなところ(出版社)で作ろうと思えばすごい数を要求されます。

電子書籍などが出て、紙の本が作られる数って右肩下がりで落ちていますよね。

 

でもその統計に載っていない、つまりカウントされていないものは増えているはずなんです。

例えば自費出版のものにしてもそう。

デジカメで撮った写真をアルバムにするサービスにしてもそうです。

みんなが「これも本やね」と思うものもあるはずなのだが、そこには出てこないわけですよ。

 

それが今どれくらいの量あるのか分かりませんが、意外にそういうのが増えているんじゃないかと肌感覚で感じるところはありますね。

 

 

〝本にまつわるあれこれ〟っていうのがもっともっと周辺にあって、これをいかにマネタイズすることを考えるべきなのではないか、と。

最後は人間が触るところとか、手渡すところとか、そういうところっていうのは残るような気がしますね。

 

だからもっと本屋の定義を〝本を売る場所〟という枠を取ってしまわないといけないと思います。

別に本を売るだけじゃなくてもいいと思うんで。

 

嶋津

〝本屋〟の定義をアップデートする。

本を簡単に作れるようになったり、ブログやSNSで個人が文章で発信することが可能になったことにより〝作家〟の定義が変わってきたところにも繋がっていますね。

 

中川

マーケットでいえばそっちの方が絶対大きい。

プロとして金を取って書ける人間より、普通の人の方が圧倒的に多いわけでよね。

 

〝プロだからおもしろい〟または〝プロでないからおもしろくない〟とは限らない。

僕の個人的な優先順位は〝おもろいか、おもろないか〟なので。

 

おもろいんやったら扱えばいいし、おもろないと思う人はやらないと思うので。

本屋だけが特別しんどくなっていっているわけじゃないですし、どの業界も同じだと思いますよ。

 

嶋津

「本が売れない」と言っているのは、〝考え方をアップデートしていないから〟ということですね。

 

中川

「本に親しんでもらおう」とか「本の良さを伝えよう」とか、まだまだできてきなところってたくさんあると思っていて。

それは本屋も、出版社も、著者も。

だから取り組み自身は、まだまだいっぱいあるような気がしますね。

考えて考えて考え尽くしていかないとあかんとは思います。

 

 

 

 

 

イベント会場としての〝場〟。

 

STANDARD BOOKSTOREでは月に数回イベントを開催している。

その頻度も上がって来て、最近では週に二回、計月八回という数だ。

 

新刊を出版した著者がトークショーをしたり、また対談の企画もある。

 

 <あーすじぷしーさんのトークショー>

 

<トークショー後のサイン会での行列>

 

 

嶋津

イベントはいつから開催されているのですか?

オープン当初からですか?

 

中川

いつからかはじめたのが覚えていないですけどww

「イベントでもやらな人来ないなぁ」と思ってね。

人からも「やった方がいいよ」と言われて。

 

最初はね、うちにいたアルバイトの子のギターショーをしたんですよ。

「お前ギターが弾けるならギターをやってみたら?5000円やるから」って。

で、カフェでやりました。

お客さん誰も聞きたいとも何とも思っていないのに、「急に今から弾きます」ってwww

 

嶋津

最初はギターのコンサートだったんですね!

 

中川

それが最初ですね。

「お前あれ、なんかもっとおもろそうに出来る気がするから友達呼んできてやってみよう」と。

とりあえずイベントのようなものを開いているうちに出版社から声がかかったり、こちらからも提案してみたり、ということで。

 

 

イベントを開く理由を聞いていくと、ひょんなことから中川さんの発想の源に行き着いた。

書店業界からはじまったのではない。

中川さんは常に、〝コミュニティの外側の人間〟だった。

 

 

 

中川

最初はどうやったらいいか分からなかったんですよ。

「イベントってそもそもなんやねん」とww

 

別に僕は学生時代にイベントをやってきたタイプの人間じゃないし。

学園祭なんかにしても、必死になって「みんなやろうぜ」とかいうこともなかったですし。

どちらかというと学校があんまり好きじゃなかったので。

 

嶋津

学校が好きでなかなった?

意外です。

 

中川

高校一年生の時に本気で辞めようと思いましたからね。

でも中卒で働くっていうのはどう考えても不利やなぁと思ったので、「もうちょっと頑張ろう」と思ってしゃあなしで通っていたくらいですから。

三年生の頃なんか〝行ったらすぐに帰る〟みたいな。

三時間目くらいに行って、弁当食べて、球技大会の練習だけして「もう帰るわオレ」ってな感じで。

 

嶋津

部活はやっていましたか?

 

中川

全然やっていなかったんですよ。

あまり団体でやることには意味を見出せなかったんですね。

同級生とは気が合わなかったですし。

 

嶋津

だとすれば、20~30年後にまさかご自身がイベントを起こすとは思ってもいなかったという。

 

中川

全く思ってもみませんでした。

やりたいこと何もなかったですし、大学に行ったのもとりあえず働くのが嫌だから4年間の猶予が欲しいなと思っだけで。

大学も授業に行かないし、バイトばっかりしていた。

何もやりたいことがなかった。

 

父親が脱サラして本屋を開業したこともあり、大学四年の頃、「これは商売の道に進まなければいけないんだ」と思って。

横浜に憧れのあったものだから求人広告を見つけ、「商売の勉強をしたいから」という理由をかこつけて父親に談判しました。

 

だけど「あかんあかん、本屋は本屋にいかなあかんねん」とあっという間に却下されて。

 

 

父の想いを受け継ぎ、中川さんは東大阪にある本屋に丁稚奉公に行った。

しかし、そこでの時間は耐え難いものだった。

 

本屋の商売に落胆する。

 

 

 

中川

入ってみたら全然おもろない。

働いている人たちと全く合わない。

「何これ?陰気なとこやなぁー」と思ってwww

 

嶋津

www

 

中川

地味なんですよ。

当時の本屋って今よりもっと地味でしたから。

「これおかしいぞ?」と思って。

 

一回り上の主任に「こんなんあかんと思いますよ」って。

新人のくせにwww

 

嶋津

当時から異端ですね。

丁稚奉公で経営に口出しwww

 

中川

「大体ここの本屋の接客おかしい」と。

 

「本がダブっていたから換えて」と言ってくるお客さんがたまにいるのですが。

中には全部読んでから返しにくるみたいな悪意があるお客さんもいるでしょうけど。

それはまぁ仕方ない。

 

親父のところでバイトもしていましたし、そういう姿も見ていたので。

デパートの場合「分かりました、気をつけてくださいね!」って、機嫌よく換えてあげるんですね。

 

ところがそこの本屋は、めちゃくちゃ怒るんですよ。

「間違えたあんたがすごい悪い!」みたいな感じで。

にもかかわらず、散々色んなこと言った挙句「今回だけですよ」って返金してあげるんです。

「それってどうなんだ」と。

 

受け付けないならまだしも、返金するとそのお客さんも「何やねんこの人」ってなるじゃないですか。

「どうせ換えるのなら、気持ち良くもう一回来てもらえることを考えましょうよ」という話をして。

 

 

 

お客さんからの問い合わせがあった時のこと。

中川さんの働いていた店には尋ねられた本がなかった。

 

 

 

中川

僕、そのお客さんに「〇〇書店さんなら置いていますよ」って教えてあげたんですよ。

そうしたら上の人からめっちゃ怒られて。

「何で他の本屋のこと言うねん!」と。

 

「いやいやあんた自分のこと考えてみ」と。

親切に教えたらまた来てくれるじゃないですか。

 

今だったらそういうこともなんとなく分かってもらえるかもしれないですが、当時はそんな意見聞いてもらえない。

「いやいや主任ね、そういう考え捨てた方がいいですよ。その方が絶対に売上に繋がるから」という話をよくしていました。

 

嶋津

仰っていることはいちいち理にかなっているww

でも、仕組みが出来上がってしまっている空間ではなかなか受け入れられるのは難しそうですね。

 

中川

「全くおもんないな」と思って三ヵ月で辞めようと思っていました。

でもその仕事先は親父の取引先からの紹介だからなんぼなんでも三ヵ月はあかんだろ、と。

で、ちょうど一年後に辞めると言ったんです。

向こうびっくりですよね。

預かって、「こいつちゃんと育てよう」と思っている時に。

 

嶋津

何で辞めるんだ?と。

 

中川

「どうしても建築事務所に行きたい」と。

 

嶋津

www

それは本心ですか?

 

中川

それは本心でしたww

 

ただ、相手からすれば理解できない。

僕が何か言い出したら聞かない人間ということも知っている。

「すいません」と。

ただ、親父は泣いていたと思いますけどね。

 

嶋津

建築事務所ではどういった仕事を?

 

中川

僕、図面なんか引けないんですよ。

友達の伝手で10ヵ月だけいました。

 

建築事務所で働きはじめて10ヵ月目に親父が吐血して、「次吐血したら終わりや」と。

そこから10日ほどで亡くなりました。

 

図面は引かせてもらえていなかったけれど楽しかったです。

本屋の仕事よりずっと。

給料は全然低かったけれどやりがいがあった。

上にいる人と建築についての話をするのが楽しかった。

 

 

 

 

 

 

この文章を書いていて気付いた。

 

中川さんにはルール(哲学)がある。

STANDARD BOOKSTOREを開くずっと昔から。

 

既存の仕組みは関係ない。

相手がハッピーになることを考えれば、自ずと答えが出てくる。

 

その方法が最良であり、それが機能してはじめて〝自由な感覚〟が手に入る。

 

 

 

先ほど僕は、〝自由を宿す未来〟こそ〝STANDARD〟であるべきなのではないか───と書いた。

 

そうではない。

STANDARD BOOKSTOREは、人間が持っている道徳───ハッピーでいられる感覚の場所だと気付いた。

 

つまり、生まれた時から宿っている〝道徳心〟こそが、人間の〝標準〟なのだ。

そのSTANDARDを大切にしている空間なのだ、と。

 

 

 

そしてそれは中川さんの最後の言葉へと繋がっていく───。

 

 

 

嶋津

これからの展望をお聞かせください。

 

中川

最近よく考えるのは、〝世の中のためになることをやりたい〟ということですね。

先ほど話したように、本屋って稀有な商売なんですよ。

 

おもしろい〝場〟なんですね。

人が集まってくる可能性がある。

その点をもっとみんなが利用した方がいいと思いますね。

 

それはお店の人も、そこに住む地域の人も、行政の人も。

みんなが利用したらいいと思う。

でないともったいない。

 

嶋津

本はきっかけに過ぎず、という?

 

中川

僕はそう思っています。

本はコミュニケーションのツールだと思っています。

 

この場所も、〝僕の店〟と言えば〝僕の店〟ですが、それ以前にパブリックな場所ですよね。

〝僕の店〟というより〝地域のもの〟。

もっと言うと〝社会のもの〟だと思っているので。

 

地域の人が支えていくような場所に育てていくべきなんです。

そういう意味では〝本〟に捉われずにもっと利用するべきですよね。

 

嶋津

〝本〟からいかに離れて考えることができるか。

 

中川

〝本〟というものの収益性だけ考えれば、とてもじゃないけど難しい商売です。

でも、その周辺にはまだまだ可能性が眠っている。 

そこをみんなが切り開いていかないと。

 

他のカテゴリーの人と交わることを考えないといけないと思っています。 

出版の方向って多岐に渡っています。

趣味の本もあれば、ビジネス書もあり、文学の本もある。

たくさんの人と付き合っているわりにはとても狭い世界なんですね。

特に考え方が。

そこを正していかないといけません。

 

どこかで本というものをアカデミックなものととして捉え過ぎているところがある。

それもとても大事なことなのですが。

もう少しみんなに寄っていくようなものにしなければいけない。

 

そのために〝本屋大賞を作った〟っていうのもあるけど、それだけじゃないはずです。

〝本屋大賞〟にしても本のことが好きな人に投げかけているわけじゃないですか。

もっと違うところにアプローチしないと。

全く本と関係ない人のところに「こんなにいいんですよ」っていうことをやっていかないといけないと思っています。

 

嶋津

ありがとうございました。

 

 

 

 

 

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